あるていどらくにいきたい

生きづらいぼくたちが
なんとか生きていけますように

2013-05-10

行政書士試験に藤田『行政法入門』は必須本であると思える。

行政法の目処が徐々に立ちはじめ、それと共に法科大学院生の友人から「とりあえず読んどけ」と紹介された藤田『行政法入門』の偉大さに感動している。


本書を使用してみた特徴

  1. 終始「なるほど、なるほど」と納得しながら読み進めることができる。
  2. この一冊の通読によって、行政書士試験の試験科目である法理論手続法不服法訴訟法国賠損失について基礎概念を理解することができる
  3. この本を完璧に理解したとしても過去問は半分も解けない
  4. 地方自治法については触れられていない

1. 通読の容易性

本書は圧倒的なほどに通読が容易である。70歳を過ぎた爺さんが書いたとは思えない。これが年の功というやつなのだろうか。藤田先生はあとがきで「初心者向けに専門的なことを語るというのは、いわば、子どもと話をするのと同じことであって、何よりも、目線を同じところに置くということが大事だと考えている」と書いている。

実際、本書はアホなほどに読みやすい。ある種の人々が予備校本を「読みやすい」ともてはやすが、私には理解しかねる。私はTACの『行政書士講義生中継 行政法』もふらふらと買ってしまったが、あれが読みやすいとはとても思えなかった。読みやすさは「ですます調」とも「豊富な図」ともお寒いジョークとも無意味な脱線とも関係ない。首尾一貫した論理と、「なぜ」の喚起と応答、興味付け、そして言葉遣いにささやかな気を配ることである。

とはいえまったく法律を勉強したことがない、という人には苦しい。私は公務員試験時代に憲法・民法について一応の基礎をさらってあった。

行政法を始める前に、
  1. 基礎法学についての本を1~2冊読んでみる
    • 伊藤『現代法学入門』圧倒的オススメである。「軽妙な語り口」とはまさに本書のこと。信じられないくらいオススメ。
  2. 憲法の導入本・教養本を2~3冊読んでみる
    • 憲法については色々読んだが印象に残っている本はとくにない。
といった作業を行い、(そんな言葉があるか分からないが)法的常識を身につけた上で本書に移るのがいいと思う。

憲法と行政法のどちらを先に勉強するかは大きな問題だが、私としては、
  1. 憲法の基礎中の基礎
  2. 行政法
  3. 憲法の標準レベル
といった具合で進めるのがいいかと思う。

2. 基本的理解の習得

本書は徹頭徹尾「入門」である。行政法上の難解な用語を、
  1. 用語の定義
  2. 用語の背景
等を通してひとつひとつ理解していくことができる。これは極めて重要な意義がある。

例えば、不服申立てや行政訴訟を起こせる者の条件として「法律上の利益」を有することがあるが、「法律上の利益」が何か分からなければ、いくら過去問の解説を読んでも意味がない。あるいは例えば、「反射的利益」について「法律上の利益ではない」といった曖昧な理解にとどまると、解説を読んでいて頭の中を疑問符が埋め尽くす思いとなる。

基礎の基礎、というのは非常に大事である。基礎がしっかりしていることで、「基礎を前提とした知識」を誤解なく吸収することができる。

また、用語にとどまらず、制度についての基本的な理解も得ることができる。

そして制度の前提となる大原則についても理解することができる。種々の制度を「目的-手段」の関係に照らしながら比較して理解することができる。ここでいう制度の「目的」こそが行政法を通底する大原則であり、この確実な理解が後々学習を助けてくれる。

本書を介して行政法におけるおおまかな理解を得られれば、あとはひたすら過去問とその解説を覚えこんでいけばよろしい。それで充分合格ラインに到達できる(はずである。なにせ私は2013年5月現在ただの受験生なので)。

3. 過去問とのレベル・ギャップ

本書が(私が忌み嫌う)予備校本に唯一叶わぬところがあるとすれば、本書を読むだけでは過去問にまるで歯がたたないということである。私がはじめて藤田本を読み終え、自信に満ち満ちて過去問に取り組んだときの絶望は筆舌に尽くしがたい。

行政法のほとんどの分野において、出題されるのは条文そのものについての知識である。残念ながら、藤田本ではあまり条文に触れていない。その意味で、直接的な試験対策としては全く役に立たないといえる。

だが、それがなんだというのか。

条文の知識なんてものは自分でせっせと仕入れればよろしい。過去問の解説欄には参照条文が載っているから、その都度確認することで試験対策は万全である(ちなみに通常の六法よりも『完全整理択一六法 行政法』のほうがオススメである。条文の趣旨などがいちいちコメントされていて理解の助けになる)。

くれぐれも本書の読者諸賢は「あれ、過去問が解けない!」等と怒り出さずにせっせと条文を引きながら過去問演習にあたって欲しい。その時、藤田本で得た背景知識や趣旨への理解が学習の助けとなるだろう。

4. 地方自治法

まことに残念なことに、本書は地方自治法についての記述がない。これは諦めるしかない。諦めよう。地方自治法については他の本をあたろう。
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